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■白雉の理想に生きる教師たち
〜四半世紀に出会った教師を志す学生たちの《いま》〜

武蔵大学名誉教授 黒澤 英典

◎北海道で白雉の理想に生きる熱血教師…
 最初に渡来和夫君を紹介したい。
 渡来君は1991年3月に経済学部経済学科を卒業した学生で、私との出会いは当時私が担当していた《教養ゼミ》であった。テーマは『戦後教育の変遷』であった。彼は高校時代に恩師の影響を強く受け社会科の教師を目指していたこともあり、問題意識を明確にして積極的にゼミで活躍した。たしか、2年のとき学生自治会委員長にもなって学内の学生問題に真剣に取り組んでいた。
 埼玉県立狭山高等学校常勤講師をした後、こころざしを立てて1992年4月には北海道函館中部高校教諭となり、1997年には現在の勤務校であるオホーツク海に面した北海道遠軽高校定時制教諭として転勤し現在にいたっている。定時制高校に勤めるかたわら、2001年から北海道家庭学校(児童自立支援施設)で子どもたちの指導にあたっている。この北海道家庭学校は、1914(大正3)年に留岡幸助によって設立された民間経営の児童自立支援施設である。留岡は教誨師を経て、1899(明治32)年に東京の巣鴨に家庭教育学校を設立した後、北海道の遠軽に北海道家庭教育学校を設立し、非行少年の感化事業にその生涯を捧げた人物である。同校は、自然条件の厳しい遠軽の地で《自然の感化》を基底においた教育を展開するとともに、夫婦である職員が1寮舎10名前後の入所児童と生活を共に《夫婦小舎制》を現在でも維持するユニークな施設である。こうした施設に関わるのも渡来君らしいヒューマンな人間性があらわれている。
 時々『世界』や『高文研』等の雑誌に暮らしの問題、定時制教育の実践報告など投稿している。月刊誌『じゅぱんす』(高文研)掲載の記事『高校生パワーが支える地域の祭り』を紹介してみよう。
 「この遠軽町は人口18,000人、日本中の地方でそうのように過疎化に悩むこの町も例外ではない。目抜き通りは、そこここにシャッターが閉じられたままの店が目立つという。そんな通りを年に一度人々の活気が埋める夕暮れの一時があるという。「遠軽がんほう夏祭り千人踊り」だ。この夏祭りの中心人物が、なにをかくそう我らの渡来和夫先生である。・…この日過疎化に悩む小さな町が高校生によって感動の渦の中におかれる。・…友人関係の悩みから他校を中退して定時制に来た生徒の母親は「あの子が皆といっしょにあんなに明るく元気に踊っているなんて、定時制にきてほんとによかった」と…。町民も「孫が学校に出てるから・・」「子どもの応援に…・」、町の人達は「高校生が参加するようになってから、祭りが活気づき、町が元気になってきた…」「高校生は年々レベルアップするからみていておもしろい…」と。この祭りの仕掛け人である渡来先生は、こうコメントしている。「たかが祭り、されど祭り。地域の行事に元気な若者の姿があるのは町に活気を呼び戻す。開かれた学校づくりが目指されるなかで、このような方法で町に出て行くことは、地域にとっても、学校にとっても楽しい、元気のでる取り組みではないだろうか。《来年は2000人踊りを目指そう》町の人々と高校生たちは夢みる」。  

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