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■第53回土曜講座 開催報告

開催日時 平成29年11月11日(土)14:00〜16:00
開催場所 武蔵大学8号館7階8702教室
講演テーマ ドキュメンタリーが映し出すもの〜発信・武蔵から世界へ〜
参加者数 85名(内訳 同窓会:50名、その他:35名)

<プログラム>
第 1 部  東日本大震災復興支援映画「MARCH」上映
第 2 部  トークセッション
講   師  角田寛和氏(第34回経済学部卒)
       永田浩三氏(本学社会学部教授)


本学卒業式において、山㟢学長が本学の精神である「自立」を体現している先輩として、2年連続で紹介している角田氏がプロデューサーとして制作した映画「MARCH」が今回の土曜講座の第1部で上映され、第2部ではその内容について、角田氏と永田氏によるトークセッションが行われた。
映画の冒頭では、水素爆発を起こした福島第一原発の影響で、国道6号線に接する家屋の入口には今もバリケードが置かれ、依然として故郷に住むことができていない現状が映し出された。東京にいると薄れていく震災の記憶が、この映像で改めて思い起こされた。
そのような中、各地にばらばらに避難した南相馬市のマーチングバンド部の子どもたちが、友達とまた会いたい、マーチングバンドの練習をしたい、あるいは大会に出たい、という思いを持った。その思いを親や教師が支援し、友達と再会し、マーチングバンドの練習を再開した。その練習風景の傍らには、放射能の線量計があり、ここが原発から近いことを改めて思い知らされた。しかし、子どもたちは、放射能に対して、(東京に住む私たちよりも)正しく理解しており、冷静であると感じた。
角田氏は、震災以降6年半で東北の支援に100回以上足を運んでいるが、福島に行くようになったのは最近のことだという。最初は福島が怖かったとのことだ。しかし、FC愛媛の試合において南相馬を応援する光景や、その試合で演奏するマーチングバンドの姿をより多くの人に見てほしいという思いから映画にしたということだ。映画の中ではマーチングバンドが演奏する楽曲が使われ、子どもたちの「生の声」が、映画を見る私たちの心に突き刺さった。
原発事故に関して、東京ではきれいごとばかりが並べられているが、その実態から目を背けている現状だ。しかし、現に生活をし、あるいはこの映画の中に登場する子どもたちのように、マーチングバンドを一生懸命練習するということも今この一瞬も行われていることを思い起こさせてくれた。
第二部のトークセッションでは、永田氏が様々な視点で角田氏に質問した。例えばプロヂューサーとして苦労したことは、映画を制作するためのお金集めや制作の作業が何もかも初めてのことだという。また、つらいだけの作品にはせず、バトンを渡すための映画にしていきたいという思いから、子どもたちの思いを掘り下げるため、30分少しの映画ではあるが、何十時間と収録したという。
エンドロールで子どもたちの名前を出していないのは、名前を出すことで風評被害に遭う可能性があり、将来にわたって子どもたちを守れるのかといわれ、名前を出さないことにしたという。
角田氏は、映画を通じて、南相馬にいること、あるいはいないことのどちらもが正解ではない。親が様々な判断をしており、そのもとに成り立っていると感じたということだ。
また、この映画における支援としては、まず「見る」支援(関心をもってもらう)があるという。次に「直接」の支援があり、これが今回のように映画を有料で貸し出し、それを活動資金になるという仕組みだ。その活動資金の一つとしては、外国の方にも見てもらえるように、多言語化にも充てている。
建物や道路の復興だけではなく、心の復興ということに焦点を当てた映画であり、今後ともより多くの方に映画を見ていただきたいと感じた。来年2月末から3月上旬に行われる江古田映画祭でも上映されるということである。
角田氏は、最近はネパール地震の支援にも行っている。この講座の2週間後には本学の学生を連れて、またネパールに行くという。ネパールの現状を写した写真で印象が残っているのは、周囲が冬の服装をする中、半袖Tシャツ一枚で佇む子どもだった。税収が少ないため国の支援がなく、貧しい暮らしをする中で、精一杯生きる姿を垣間見た。
映画「MARCH」やこのネパールの写真を通して、何事においても「生」を見たり聞いたり、それをもとに考えたりすることの大切さが伝わる講演会であった。
私自身も身近なところで、この映画の存在を伝えていき、一人でも多くの方に「生」を見てほしいと感じた。

(報告者:間所達郎 55回社会)